家族信託には遺言の機能もありますが、遺言との違いは?
遺言と家族信託を比較するとき、家族信託を二つのパターンに分けて考える必要があると思われます。
一つ目は、信託契約の一般的なケースである、「生前の」財産管理の機能を持たせる場合です。この場合、その効力は、家族信託契約時からスタートします。
二つ目は、遺言の中で家族信託を設定し、相続発生「後」の財産管理や二次相続以降の資産承継先を指定する場合です。この場合、その効力は、相続発生後からスタートします。
■資産承継の対策だけなら遺言のみで足りるが…
民法が規定する通常の遺言と信託法の規定する家族信託契約との違いは、親の死後の財産の承継先指定が主たる目的であるのが遺言、親の元気な間から財産管理を担うのが家族信託です。
つまり、親が亡くなった後の遺産分けを法定相続分と異なるようにしたい希望がある場合は遺言のみで事足ります。
一方で、親の生前の財産管理について、対策(認知症等による実質的な資産凍結を防ぐ手立て)を講じる必要がある場合には、家族信託を活用することで、①生前の判断能力低下中の財産管理と②亡くなった後の遺産分けの指定の両方の対策に非常に効果的です。
つまり、家族信託契約の対象に指定した財産については、判断能力低下中の財産管理機能に加えて遺言の機能も付いてくるのです。(家族信託契約に含む財産は、「全財産」を必ず含める必要はございません。
全財産のうちで上記①、②の対策に必要な財産のみを選択することができます。)
■遺言は一代限りだが、遺言信託は数次相続に対応しています
次に、遺言と「遺言信託」についての比較です。
どちらも遺言者の死亡により効力が生じる遺言という意味では同じです。
しかし、通常の遺言は、一代限りの資産の承継先の指定にとどまり、なおかつ、財産をもらった相続人・受遺者は、所有者として財産を自己の責任において管理しなければならない。つまり、一代先までしか引き継がせたい財産を指定できません。
一方の「遺言信託」は、資産の承継先を指定する機能だけでなく、相続が発生する前に遺言者が財産管理の仕組みづくり(家族信託の設計等)をし、それをそのまま相続人・受遺者が引き受けることができます。そのため、例えば相続人に高齢の配偶者がいるとし、判断能力がすでに危ぶまれるような場合、その配偶者をサポートする仕組みを作ればその仕組み自体を相続することができます。
さらに、資産の承継先は一代限りという制約はないので、数次相続に対応した何段階にも資産の承継先を指定することが可能です。つまり、今の所有者の方が特定の財産の引継ぎ先を二代先、三代先、と先々まで指定することができます。
結果的に、親と家族が望む「老後の財産管理」と「死後の財産管理・資産承継」を実現するには、遺言よりも家族信託が有効的な手段となります。
お客様の状況によっては、家族信託を使わずとも望み通りの形を作ることも可能です。
1つのお悩み解決に手段は1つとは限りません。いろいろな制度の長所を組み合わせることで、お客様にとって最適な法務の解決方法を我々はご提案させていただきます。いつでもお希望をお聞かせください。